今回お話を伺ったのは、
株式会社アドバンスト・メディアの代表取締役会長兼社長を務める、鈴木 清幸(すずき きよゆき)さんです。
音声認識技術の市場開拓を専門とし、業界トップのシェアを誇る『アドバンスト・メディア』を創業した鈴木社長に、音声認識技術の可能性と、企業経営にかける想いについてお聞きしました。
【現在】音声認識技術の市場を切り拓くアドバンスト・メディア
—アドバンスト・メディアの事業内容について教えてください
当社は、音声認識技術の市場開拓を専門にしている会社です。1997年に創業した当時、日本には音声認識の市場なんてほとんどありませんでした。でも、世界最高水準の「AmiVoice」を開発し、そこから市場化を進めていったんです。
創業から7年で株式上場を果たし、2005年には時価総額1500億円ほどになりました。その後も中期経営計画を繰り返しながら、2017年には利益が安定する構造ができて、今はさらなる事業拡大を目指しているところです。
アメリカでは、医療分野に特化したビジネスを展開し、2018年には3Mのヘルスケア部門に1000億円で買収されました。日本でも音声認識市場が広がり、医療や議事録作成、コールセンターなど、さまざまな分野で活用されています。
また、AI技術の進化に伴い、音声認識の精度向上やクラウド型サービスの提供を強化。Google Cloudプラットフォームと比較しても、コスト面や技術面で優位性を持つサービスを展開し、業界トップのシェアを維持しています。
—経営の中で特に意識している点について教えてください。
そうですね、一番大切にしているのは「揺るがない目標」です。私はこれをビジョンと呼んでいます。当社のビジョンは「人とキカイとの自然なコミュニケーションを実現し、豊かな未来を創造する」です。
創業当初から、ただ技術を開発するだけではなく、それをどう社会に役立てるかを常に考えてきました。音声認識技術を活用して、医療や自治体、企業の業務を効率化し、人々の生活をより便利にすることが重要だと思っています。
また、企業活動には「社会価値志向の成長」が欠かせません。単なる売上や利益の追求ではなく、社会のニーズに応えながら成長していくことが大切です。そのために、役員社員・社会(顧客を含む)・株主の三者を意識しながら、企業としての責任を果たしていくことを常に考えています。
今後も、音声認識技術を活用した新たな市場創出を目指し、さらなる成長を続けていきます。
【過去】音声認識技術の可能性を信じた創業の決断
— 創業のきっかけを教えてください。
私がAIの世界に飛び込んだのは約38年前のことです。当時、日本では第一次AIブームが起こっていましたが、まだ市場としては未成熟でした。私は東洋エンジニアリングの研究所に所属していましたが、AI技術を「使う側」ではなく「提供する側」になりたいと考え、カーネギーメロン大学へ渡りました。
カーネギーメロン大学のロボティクス研究所は、世界中の優秀なAI技術者が集まる場所でした。私は日本で12年間AIの普及活動を行いましたが、限界を感じていた頃、そこで音声認識技術の専門家たちと出会いました。彼らの技術は非常に優れていましたが、当時のコンピューターはまだキーボード入力が主流で、音声で指示を出すという発想はほとんどありませんでした。
「これではいけない、日本の新たな産業を生み出すべきだ」と考え、彼らを説得して「日米同時音声認識市場開拓プロジェクト」を立ち上げました。そして1997年12月10日、アドバンスト・メディアを創業したのです。
— 創業当時、どんな苦労がありましたか?
企業を成長させるためには、技術だけでなく資金も必要です。私は以前のAI企業でCTOを務めていましたが、経営の本質は「続けること」、つまりサステナビリティだと学びました。そのため、創業時から資金調達を重視し、創業までに約140億円を集めてきました。
また、経営には「ピンチをチャンスに変える力」が必要です。例えば、2000年に協業していたアメリカの音声認識企業が倒産した際、私たちは技術者を引き取り、新しい会社を設立しました。その結果、医療分野に特化したビジネスが成功し、10年後には大手企業に買収されるほどの成長を遂げました。
日本では音声認識市場が未成熟だったため、医療だけでなく議事録作成やコールセンターなど、さまざまな分野に技術を展開しました。一方、アメリカでは医療分野に特化し、10年間で急成長。その結果、私たちが提供した資金の10倍以上の価値で株式を売却することができました。
このように、ピンチをチャンスに変えながら成長を続けてきたことが、今のアドバンスト・メディアの基盤になっています。技術の可能性を信じ、挑戦を続けたからこそ、音声認識市場を切り拓くことができたのです。
【未来】AIと音声認識が創る新たな価値
— 今後のアドバンスト・メディアの展望や目標について教えてください。
これまで私たちはAmiVoiceを中心に音声認識市場の開拓を進めてきました。特にクラウド型のAmiVoice Cloudサービスを展開し、ソフトウェア市場で高いシェアを獲得しています。
今後は、これまで単独で提供してきた各種の音声認識サービスをワンストップ化し、より利便性の高いプラットフォームを構築することが重要だと考えています。また、Beyond Speech Recognition(BSR)という概念を軸に、単なるソリューション販売ではなく、顧客の利便性を最大化するビジネスモデルへと進化していきます。
さらに、現在は拡大期に入り、新たな技術革新を進めている段階です。新しい市場を開拓するために、DSR(Dynamic Speech Recognition)の概念を活かし、次世代の音声認識サービスを展開していきます。これにより、企業や個人がAI技術をより実用的に活用できるようになります。
— 今後の技術開発や企業理念について、特に意識していることは何でしょうか?
私たちが目指すのは、人とAIの共存です。AIが人を助け、また人がAIを活用することで、お互いの能力を高めることができます。例えば、現在のAIはハルシネーション(幻覚)を起こすことがありますが、真偽を見極める力は人間にしかありません。だからこそ、人間の知性とAIの計算能力を融合させ、より高度な価値を創出することが重要だと考えています。
この未来を実現するために、私たちは技術革新と産業の発展を促進し、新たな市場を創出し続けます。これまで培ってきた技術を基盤に、未来の社会に必要とされる革新的なサービスを提供し続けることで、人とAIが共存する社会を創り上げていきたいと思っています。
【若者へ】挑戦と成長を続けるために
― 若い世代の方々へメッセージをお願いします。
キャリアを築くうえで大切なのは、「目標に向かっての階段を設定し、すぐに踏み出すこと」です。何かをやろうと思っても、行動しなければ変化は生まれません。だからこそ、最初の一歩をためらわずに踏み出すことが重要なんです。
私自身、「チャレンジ&チェンジ」を人生の指針としてきました。成長は継続の結果であり、継続するためには挑戦し続けることが必要です。変化を求める挑戦が成長につながり、その成長がさらに次の挑戦を生み出します。このサイクルを回し続けることこそが、充実したキャリアと人生を築く秘訣だと思っています。後悔しない生き方をするためには、常に「未熟であること」を自覚し、それを乗り越える努力を続けることが大切です。飽くなき成長を求めて実践し続ければ、結果は後からついてくる。どんなときでも挑戦し続けること、それが未来への一歩になると思います。

鈴木代表へのインタビューを終えて
今回、市場を切り拓き続けるアドバンスト・メディア。その成長の裏には、鈴木社長の揺るぎない信念と挑戦の精神があることを強く感じました。
「技術の可能性を信じ、挑戦を続けることで市場が生まれる」という言葉には、創業当初からの思いが詰まっています。日本にほぼ存在しなかった音声認識市場を開拓し、企業として確かな基盤を築いてきた背景には、社会価値の創出を意識した戦略があったのだと納得しました。特に印象的だったのは「ピンチをチャンスに変える力」。市場の変化にも柔軟に対応し、成長を続けてきた経営手腕は、多くのビジネスリーダーにとっても参考になるはずです。
未来への展望として語られた「人とAIの共存」。AIを活用し、新しい価値を創造することを目指している点に、アドバンスト・メディアの次なる挑戦への期待が高まります。「挑戦し続けることこそが未来を創る」鈴木社長の言葉から、多くの学びを得ることができたインタビューでした。
【会社名】
株式会社アドバンスト・メディア
【事業内容】
AmiVoiceを組み込んだ音声認識ソリューションの企画・設計・開発を行う「ソリューション事業」
AmiVoiceを組み込んだアプリケーション商品をライセンス販売する「プロダクト事業」
企業内のユーザーや一般消費者へAmiVoiceをサービス利用の形で提供する「サービス事業」
【代表者氏名】
代表取締役兼社長:鈴木 清幸(すずき きよゆき)
【代表経歴】
1952年生まれ。愛知県出身。
京都大学大学院工学研究科化学工学専攻博士課程2年中退。1978年、東洋エンジニアリング入社。インテリジェントテクノロジーへ転職後、米国カーネギーグループ主催の知識工学エンジニア養成プログラム(KECP)を修了。
1997年にアドバンスト・メディアを設立、代表取締役社長に就任。2005年に東証マザーズ上場。
【企業所在地】
本社
〒170-6042
東京都豊島区東池袋3-1-1 サンシャイン60 42階