2024年6月28日に銀座で開催された『上場企業特別講演〜トップ経営者が語る光(成功)と影(ハードシングス)~』。今回は、盛況だった講義当日の様子をレポートします。

今回のゲストは、ピップ株式会社、取締役の久保田 達之助(くぼた たつのすけ)さん。ピップ株式会社はWELLNESS(身心の健康)に貢献するトップ企業の実現を目指した、日本を代表するTHE WELLNESS COMPANYです。
久保田さんは、藤本ホールディングス株式会社執行役員CMO最高マーケティング責任者も務めています。明治大学政治学部経営学科卒、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了後、大手旅行会社で事業開発部長、大手化粧品会社で取締マーケティング部長兼海外戦略部長を務め、2018年6月に、藤本ホールディングス株式会社のCMOに就任されました。
2019年11月から、ピップ株式会社取締役、商品開発事業部長として、メーカー部門の製造販売部門の統括、明治大学早稲田大学でも実践的なマーケティングに関する全講義を担当しており、マーケティング人材の教育にも尽力されています。
01 Empowering Minds
〜大学で学生に伝えていること~

久保田さんはマーケティング研究会というサークルの顧問を務めており、サークル活動の中でも学生にマーケティングの観点を教えています。サークル運営でも、久保田さんのマーケティングが活かされています。
大学生特有の飲み会のトラブルを未然に防ぐことやZ世代の学生の習性の変化に着目し、敢えて「打ち上げや飲み会に関する厳しいルール」を打ち出しています。一見、希望者が減りそうに思えますが、実際は統制の取れたサークル運営を好んで入ってくる学生が多くなったといいます。
こういったルールを通して、久保田さんは学生に「相手の立場に立って考えることの大切さ」を伝えています。これはマーケティングにおいて非常に重要な視点で、サークルの飲み会においても、帰りたくても帰りたいと言えない1年生の気持ちに立って考えることが大切だという考えです。
久保田さんは「1年生の気持ちがわからない2、3年生はマーケティングを学ぶ資格がない」と学生に厳しく伝えているそうです。机上の学びだけでなく、サークル運営を通してマーケティングを体現しているのが伺えます。
02 Growth
~マーケティングのプロとしての経験~

久保田さんは、高校時代からエンターテインメント業界に興味を持ち、テレビ局入りを目指していましたが、希望するテレビ局に入ることができなかったと言います。しかし、その後ヨーロッパを一周したことをきっかけに「旅もエンターテインメントだ」と考え、旅行会社に入社することを決めました。
旅行会社では、エンターテインメント業界との繋がりを活かし、タレントの個人旅行の手配やCDのジャケット撮影のロケ地選定、テレビ番組の制作支援などを行っていました。当時はとても忙しい日々を過ごしていた久保田さんですが、エンターテインメント業界で常に「人を楽しませる」ことを考える仕事に没頭し、とても充実感があったと言います。旅行会社でマーケティング責任者として、数々の功績を残した後、化粧品分野でも活躍されました。
化粧品分野では、経験したことのない分野でマーケティングを考えなければならないという点で苦労があったそうです。今までは旅行会社でのマーケティングをメインで行っていたので、消費者は性別や老若男女関係ありませんでしたが、化粧品会社では女性にフォーカスしたマーケティングを考えなければならなかったので、そこが新たな挑戦になったと話しました。その際に社長から「男性は機能や性能などの詳細に注目して商品を選ぶが、女性は“なんとなく”の感覚で決めることが多い」というアドバイスをもらった久保田さんは、女性向けのマーケティングにおいては男性であっても「自分で使ってみる」ということが大事だと考えました。
この考えに基づき、“男性メイクデー”というものを作り、女性の気持ちになって商品を考える時間を作ったと言います。その中で久保田さん自身も自分でメイク道具を使うことにより、女性が化粧道具を使用する際に大事にしている部分を身を持って実感することにより、女性目線でのマーケティングに活かしていったそうです。
こうした実践的なアプローチは、表面的な分析にとどまらず、顧客の感性に寄り添う本質的なマーケティングを築く原動力となり、久保田さんの真摯でクリエイティブな仕事への向き合い方を物語っています。
03 Hard things
~取締役に就任した際にぶつかった壁~

マーケティングをとにかくやり続けてきた久保田さんが取締役に就任した時、自身の財務に関する知識の乏しさを実感したそうです。久保田さんは「これでは経営者失格だ」と反省し、経営の全体を短期で学ぶためにMBAの取得を目指して大学院に通い始めました。
取締役として現役で働きながら夜間に大学院へ通い、土日もフルで事業がある中、日曜日は朝から晩まで勉強漬けの日々を過ごしていたそうです。久保田さんはこの時期を最も辛い2年間だったと話します。
財務やマーケティングに関して分からないことや悩んだときは大学院の先生にうまく質問を投げかけながら、仕事に活かす実践的な学びができていたと言いました。この点では「仕事をしながら並行して学べたことが良かった」とプラスに捉えていました。
04 Vision
~ピップ株式会社と出会ってから~

久保田さんは、ピップ株式会社に入社後も大きな壁が立ちはだかったと言います。
コロナの流行によって、久保田さんが経験してきた今までのマーケティングが全然通用しなくなってしまいました。その後も2022年まで厳しい時期が続いたそうです。
この時、久保田さんの中では自身の長年のマーケティング経験が邪魔をしているという感覚があったそうです。ここまできたら考え方を変えてしまうのが一番いいと考え、自分がマーケティングの経験者だということを忘れ、過去積み上げてきたマーケティングの知識や手法を手放し、「今の消費者がどうか」ということだけを考えるようにしたと言います。その際に、マーケティングにおいて改めて自分ごととして考え、共感することを意識したと話しました。
特に、ペルソナを考えるなどの今までのマーケティング手法を捨て、“すべては消費者起点だ”と考えるようにしたそうです。この時、久保田さんは「トライブ」という部族のマーケティングを取り入れました。つまり、年齢や性別で区切るのではなく「お困りごと」から入っていくマーケティングの手法を採用したのです。
その後、久保田さんはEC戦略として直販を始めました。他社のECサイトと争うのではなく、直販はただの買い物をする場所ではなく、ファンクラブだという定義付けをしました。そこに登録してくれている会員に対しては、新商品を最優先で販売したり、情報をいち早く解禁したりという優遇をしています。これはもともとエンタメ業界に精通していた経験から、芸能界のファンクラブの考え方をもとにしたものでした。その考え方をそのまま商品に当てこんだ戦略として展開していきました。
今後についても、今は一社で戦える時代ではないという考え方から、他BtoCのメーカーとも協業して展開していくようです。
05 Message
~20代・30代の方へ~

久保田さんは、マーケティングは恋愛と一緒で「好きになってもらうことを考える」ことだと話します。
それには好奇心が大事で、人と同じことではなく違ったことをやらないといけないと話しました。
学生には、よく「今日、通学途中で何か気になった広告があったか?」と問いかけるそうで、マーケターになりたいのであれば、常に街中に溢れる広告にアンテナを張って、その広告はどんな意図で打ち出しているのかを考える習慣をつけることを促しているそうです。
今回のお話から、マーケティングの考え方はどんな分野であっても共通しているものがあり、良いサービスやモノを展開していく上では、世の中や時代の流れに沿って、マーケティング的目線で考えることがとても重要なのではないでしょうか。
ライター | 経歴 |
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![]() 吉沼 | 株式会社パーソナルナビメディア事業部。 キャリアアップメディア『THE CAREER』 のインタビュアー兼ライター。 四年制大学で語学系の学部を卒業後、大手アパレル会社に勤務。 退職後は営業や、人材•教育業界にて20~30代を中心にキャリアアップ支援事業を行っている。 |
【会社名】
ピップ株式会社
【事業内容】
医療衛生用品、健康食品、ベビー用品、ヘルスケア用品、日用雑貨、医薬品、医薬部外品、医療機器などの卸販売。ピップエレキバン、ピップマグネループ、スリムウォークなどの自社開発商品の製造・販売
【登壇者氏名】
久保田 達之助(くぼた たつのすけ)
【登壇者経歴】
1963年9月17日生まれ。東京出身。
フジモトHD株式会社 執行役員 CMO(最高マーケティング責任者)
早稲田大学非常勤講師。明治大学兼任講師。
明治大学政治経済学部経済学科卒、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。
大手旅行会社で事業開発部長、大手化粧品会社で取締役マーケティング部長兼海外戦略部長を務め、2018年6月にフジモトHD株式会社のCMOに就任。2019年11月からはピップ株式会社 取締役 商品開発事業本部長として、メーカー部門の製造・販売部門も統括。
明治大学・早稲田大学でも実践的なマーケティングに関するゼミ、講義を担当しており、マーケティング人材の育成にも尽力している。
【本社所在地】
〒540-0011
大阪府大阪市中央区農人橋二丁目1番36号